大判例

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東京高等裁判所 昭和56年(行ケ)80号 判決

1 請求の原因1ないし3の事実は、当事者間に争いがない。

2 そこで、原告主張の審決取消事由の存否について判断する。

(一) 成立に争いのない甲第三号証の一・二、甲第五号証の二及び甲第七号証の一・二によれば、本願発明は、「地震に顕著な水平方向の振動と外乱振動による上下方向の振動等に対して、正確に判別して検知測定すること」(明細書第二頁第一一行ないし第一三行目)を主要な目的の一つとし、その目的を達成するために、「検知函に円筒形の検知体を、蓋体にそれを支持する部材を備え、そのいずれか一方または双方を磁化して検知体を函内に垂下し」(特許請求の範囲)、これにより、「支持部材のほかに検知体自体をも磁化することができ、かつ検知体の重量と重心を自由に調節できるようにしたことによつて、複雑な振動現象をより確実に捕捉することができるようにした」(前同第二頁第六行ないし第一〇行目)構成のものであることが認められる。

ところで、地震の測定点に対して水平方向の三六〇度全方向から地震波による振動が伝達されることは、事理の当然であり、本願発明の円筒形の検知体は、垂下されて設置されているものであるから、検知体の水平方向において三六〇度全方向に対して同じように振動を受けられるものであることは明らかである。

もとより、本願発明の垂下設置される検知体が無指向性をもつためには、それが円筒形であるだけでなく、検知体の中心に磁石が配置されていなければならないが、右の如く地震の測定点に対して水平方向の三六〇度全方向から地震波による振動が伝達されることが事理の当然である以上、振動検知測定装置の他の条件も偏つたものでなく、無指向性のものとすることは当然のこととして理解でき、かつ、地震の検知を主要な目的の一つとする測定装置として、検知体の中心から外れたところに磁石を配置することによる利点が全く考えられず、そのうえ、検知体の中心に磁石が配置されるようにすることが、検知体の装着方法として最も簡明な選択の対象であること、本願発明の基本を示す明細書添付の別紙図面(一)第1図において検知体2と支持部材3と両永久磁石Mの各中心線が一致するように図示されていること等を考えると、本願発明は、特許請求の範囲に明記していなくても、検知体の中心に磁石を配置することが構成の内容とされていると解するのが相当である。

以上の事実によれば、本願明細書に、三六〇度全方向からの振動を検知できるとの作用効果が明記されていなくとも、本願発明に係る技術分野において通常の技術的知識を有する者であれば、本願発明が右の作用効果、すなわち無指向性を有すること及びその明細書に右の作用効果を奏するために必要な構成が示されていることを正確に理解することができるというべきである。

一方、引用例の発明が無指向性を有しないことは、当事者間に争いがなく、振動測定装置において無指向性が重要な要素であることは、その装置の機能からみて明らかである。

そうであれば、本願発明は、引用例にない顕著な作用効果を有するというべきである。

(二) 被告は、振動検知における無指向性は、地震検知上の効果にすぎないのであつて、一般の振動検知測定装置を対象とする本願発明の作用効果とはいえない旨主張する。

しかし、水平方向の三六〇度全方向に対して同じように振動を検知できるという作用効果を奏する本願発明は、振動検知測定装置として地震以外の振動も同様に測定できることは前掲甲第三号証の一・二、第五号証の二、第七号証の二及び弁論の全趣旨により明らかであるので、本願発明の前記作用効果は、地震の検知測定装置に限定されるものでなく、被告の主張は理由がない。

三 被告は、本願発明の出願前に頒布された特公昭二九―六〇九八号特許公報をあげて、これには、検知体を円柱体とし、該円柱体を磁化し、磁化した台盤上に直立させた振動検知装置が記載されており、右装置の検知体の支持態様と本願発明のそれと本質的な相違があるとは考えられないので、本願発明の無指向性という作用効果は従来技術に比し格別のものといえない旨主張する。

成立に争いのない乙第一号証によれば、前記特許公報に記載されているものは、道床振動測定装置に関する発明であつて、その装置の検知体として磁化した直円〓体を、磁化した台盤上に同極が接するようにして直立させる技術内容が示されていることが認められるが、円筒形の検知体を検知函内に支持部材により垂直に垂下させる本願発明の構成とは相違しており、かつ前記特許公報に記載の技術が示されているだけでは、本願発明の無指向性の効果が出願当時の慣用技術に基づくものであつたとするには足りないものといわねばならない。

四 被告は、引用例の検知体とその支持部材とは点状よりはるかに広い周円状に対向して磁気吸引力が作用するので安定した状態で垂下支持され、一定値以上の振動加速度ではじめて作動する特性を得ることができるものであるから、本願発明の検知体の対向面を円筒形にすることは容易である旨主張する。

しかし、引用例が被告の主張するような特性を有するものであつても、引用例の発明が三六〇度全方向に対し振動を検知できる作用効果を有しないことは、前示のとおり、被告も認めて争わないところであり、かつ成立に争いのない甲第二号証によれば、引用例は、約三五度に傾斜する中空状案内筒の上下に永久磁石を固定し、その中に移動可能でスイツチの役目をもつ受振球を装填した構造であることが認められ、そのような作用効果を奏する構造でないことが明らかであつて、前記一のとおり本願発明は引用例にない無指向性という顕著な作用効果を有するとの判断には何ら影響しないから被告の主張は理由がない。

3 以上に検討したとおり、本願発明は水平方向において三六〇度全方向に対し振動を正確に検知できるのに対し、引用例の発明は右作用効果を有しないものであるので、その間の作用効果に顕著な差異があり、右作用効果を奏するのに必要な構成をもつ本願発明と引用例とでは構成の点で相違することも明らかである。

しかるに、審決は、これを看過し、第一の発明が引用例に示されたものに基づき当業者が容易に発明することができたものと誤つて判断したものであり、結論に影響を及ぼすべき違法があるから取消されねばならない。

4 よつて、本件審決の取消を求める原告の本訴請求は理由があるので、これを認容する。

〔編註その一〕 本願発明に関する事項は左のとおりである。

1 特許庁における手続の経緯

原告は、昭和四六年一〇月一一日、名称を「振動検知測定装置」とする発明(以下「本願発明」という。)につき特許出願(昭和四六年特許願第八〇〇二〇号)をしたところ、昭和五〇年五月一七日拒絶査定を受けたので、同年七月二九日、審判の請求をし、昭和五〇年審判第六六三四号事件として審理された結果、昭和五六年二月六日、「本件審判の請求は成り立たない。」との審決があり、その謄本は同月二四日原告に送達された。

2 本願発明の要旨

(一) 検知函に円筒形の検知体を、蓋体にそれを支持する部材を備え、そのいずれか一方または双方を磁化して検知体を函内に垂下し、外部よりの振動を感知して検知体が落下するようにしたことを特徴とする振動検知測定装置。

(二) 検知函に円筒形の検知体を、蓋体にそれを支持する部材を備え、そのいずれか一方または双方を磁化して検知体を函内に垂下し、検知体には重量と重心を調節するための調整手段を設けたことを特徴とする振動検知測定装置。(別紙図面(一)参照。)

〔編註その二〕 本件に関する図面は左のとおりである。

図面(一)

<省略>

<省略>

図面(二)

<省略>

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